2019年02月01日

3 武侠三国志 剣豪徐庶の物語

翌日、曹操の前に現れた時の許褚の姿は、酷いものだった。

額に包帯を巻き、全身がアザだらけ。骨折したのか、足を引きずっている。赤壁の敗戦の後でさえ、それほど、酷い有様ではなかったはずだ。

「申し訳ありません」

額ずいた許褚を曹操が助け起こした。

「酷い有様だな」

曹操が苦笑する傍らで、軍師程cが苦々しい眼差しを向ける。親衛隊長ともあろうものが、夜中に一体、何をしているのかと。聞くところによると、朝、曹操が庭に出たところで、寝っ転がっている許褚を発見したというではないか。

「許褚よ。酔っ払って、階段から転げ落ちたのか!」

「そうではありません。丞相……。あれは夢なのか……」

狼狽する許褚の肩を曹操は、ポンと叩く。

「何があったのか正直に話してみよ。わしはお前を咎めはせん」

「はあ……。実は……」

許褚は、曹沖らしい少年にコテンパンにやられた顛末を話した。

話がすすむにつれて、許褚の狼狽が曹操に伝染した。

「倉舒が、生きていただと……?」

「はい。見間違うはずがありません。あれは間違いなく、倉舒様でした」

「倉舒が生きているなら、なにゆえ、わしに会いにこんのだ……。倉舒は、誰と一緒だったのだ?」

「しかと姿を見定めることはできませんでした。ただ、倉舒様はその者を師父と呼んでおりました」

「師父……、師父とな……。一体何者だ! わしの倉舒をさらったのは!」

曹操の罵声に許褚はブルっと身を震わせる。

「丞相。落ち着いてください。倉舒様と決まったわけではありますまい。おそらく、倉舒様とそっくりの少年が、倉舒様を騙っているだけという可能性が高いのでは」

と程cがなだめる。

「あの倉舒に似ている少年がいると思うか! 倉舒のような美少年は、倉舒しかおらん! 倉舒ほど賢い子はこの世におらん!」

曹沖のことになると、曹操は冷静に判断することができなくなる。

程cも、口をつぐむしかない。

「華佗だ! 華佗に違いない! 倉舒を生き返らせたうえで、自分の弟子にして操っているに違いない! おのれ! 華佗のやつ!」

「丞相。華佗なら、すでに処刑済ですぞ。許褚に命じて首を切らせたではありませんか」

「ふん。華佗のやつ。切られた後で自ら首を縫い付けたのであろう。そして、わしの倉舒に薬をもって死んだように見せかけた。その後、棺桶をほじくりだして、倉舒を連れ去ったに違いない」

なんとも荒唐無稽な話である。それが曹操の口から出るとは。

程cも頭を抱えるしかなかった。

その時、長身の文官がどこからともなく、入ってきた。

「丞相に拝謁いたします」

司馬懿である。

後に、諸葛孔明のライバルとも目される司馬懿であるが、この時期、彼は、程cのような軍師の立場にはなく、一文官でしかない。

一文官が呼ばれもしないのに、のこのこと曹操に会いに来ることはありえない。

しかし、司馬懿は、今、この場にいるのが当たり前であるかのように平然と立っていた。

「何のようだ!」

「はっ。丞相が、私のことを呼んでいるような気がいたしましたので」

「お前のことなど……! いや、司馬懿、ちょうどよい。倉舒の墓へ参る。準備せよ」

「はっ。準備は整っております。いつでも出立できますぞ」

「そうか。では参る」

「はっ。お供いたします」

程cは、目を見張った。

えらく準備のいい男である。

許褚の話を盗み聞きしていたのだろうか。

その上で、曹操が曹沖の墓へ行くと予想して準備したとすれば、驚くべき頭脳の持ち主ではないか。

程cは、じろりと司馬懿をみやる。

司馬懿は眉一つ動かさない。

どんな理不尽な命令を受けようとも、「かしこまりました」と、淡々と成し遂げてしまうのだ。

こやつは只者ではない……。我らにとって災いとならねばよいが……。
posted by ノベル時代社武侠小説プロジェクト at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 武侠三国志 剣豪徐庶の物語
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