2019年02月01日

4 武侠三国志 剣豪徐庶の物語

「墓を開けよ」

曹沖の墓の前に立った時、曹操は開口一番に命じた。

程cが、お待ちを! と止める間もなく、司馬懿は淡々と曹操の命令に従った。

部下たちに命じて、墓石をどけて、またたく間に、石棺を掘り出させてしまった。

曹操、程c、司馬懿、許褚が見守る中で、石棺がギギッと鈍い音を立てた。

ドサッと石の蓋が地面に置かれた後で、曹操が棺桶を覗き込んだ。

「なんだこれは!」

さすがの程cも、唖然とし、許褚に至っては、口をがくがく震わせながら、その場にドスンと座り込んでしまった。

「ご覧のとおりです」

司馬懿だけが平然としていた。

「倉舒がいない!」

曹操が棺桶に手を突っ込んで、何かを掴んだ。

「これはどういうことだ!」

曹操の手には、一本の竹が握りしめられていた。

「そう。竹でございます」

と司馬懿はあくまでも冷静である。

「なにゆえ、倉舒がおらず、竹が入っている!」

「めでたいことでございます」

「何がめでたい! やはり、華佗が倉舒をさらったのだ!」

「ご冗談を。華佗など関係ありません」

「ではなんだというのだ!」

「倉舒様は、生前、あまりに才能がありすぎました。それ故、死後、昇仙されたのです」

「昇仙だと?」

「はい。仙人になられて、不老不死を得られたのです。永遠に老いることなく、永遠に生きることができるのです。めでたいと言わずしてなんと言いましょう」

「では、なにゆえ、わしのところにこないのだ。なにゆえ、どこの誰とも知れぬ輩を、師父などと呼んでおる」

「それは、倉舒様に何かお考えがあってのことでしょう。私のような凡人には、想像の及ばぬことでございます」

「墓を元に戻しておけ」

「はっ」

司馬懿の指示で、部下たちが再び、石棺を地面に埋める。墓石もまたたく間に元の位置に戻される。

手際の良い仕事ぶりを見やりながら、曹操は、程cに命じた。

「倉舒を探して、わしのところへ連れて来い。国中に触れを出すのだ」

「しかし、丞相。倉舒様はすでに、お亡くなりになったことになっております。触れを出して探すなどということはできますまい」

その理由はいくつもある。

一つは、曹操が、亡くなったはずの曹沖を探しているなどということが世間に知られれば、曹操がいよいよ狂ったと誰もが噂するだろう。ということだ。

もう一つは、曹操の後継者問題である。

目下のところ、曹丕が後継者に選ばれるであろうと噂されているが、曹沖が生きているとなれば、その流れは変わる。

何しろ、曹操は、聡明な曹沖を溺愛していて、後継者にと考えていたのだ。

曹沖が亡くなった時、曹丕に対して、わしにとっては不幸だが、お前にとっては幸いだったな。と吐き捨てたほどである。

曹沖が生きているとなれば、曹丕は、排除されるだろう。

曹操が生きているうちはいい。曹操が亡くなった時は、曹丕に取り入っている重臣たちが、曹沖を廃すべく兵を挙げかねない。そうなってしまえば、曹家の天下が揺らぐことになる。

程cはそのことを口に出しはしなかったが、曹操も察したようである。

「うむ……。ならば、密かに、倉舒を探せ」

「では、信頼できる者を選んで、探させることにいたしましょう」

「頼んだぞ」

「はっ」

曹操が立ち去るのを見送ったところで、程cは、部下たちに後始末を命じている司馬懿に声を掛けた。

「仲達殿なら、如何にして、倉舒様を探すかな。一つ知恵を拝借したい」

司馬懿が拱手して曰く。

「私のような凡人には、名案は思いつきませぬ。軍師殿こそ、なにかお考えがおありなのでは?」

「仲達殿は、倉舒様の教育係でしたな。何か、気づいたことはないのかね?」

「私は、四書五経をお教え申し上げただけです。特に変わったことなどありませんでした」

「ほう。何も知らぬと申すか」

「はい」

司馬懿は、眉一つ動かさずに、頭を下げた。

こやつから、なにか聞き出すことはできまい。

ため息を漏らした程cは、許褚についてくるよう命じ、その場を去った。
posted by ノベル時代社武侠小説プロジェクト at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 武侠三国志 剣豪徐庶の物語
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