2019年02月03日

5 武侠三国志 剣豪徐庶の物語

墓所を後にした程cは、許都郊外の竹林にやってきた。

許褚も、痛む足を引きずりながら、後を追いかける。

「軍師殿。一体どこへ行かれるのです」

「これから、ある人に会う。そこでお前は、昨夜の一部始終を余すことなく語るのだ」

「丞相にお話したことが、全てです。他に話すことなどありはしません。あっ、イタタ……」

「話すだけでは、足りん。倉舒様がお使いになった武術を再現してみせよと言うのだ」

「冗談じゃありませんよ! 屋根から飛び降りたり、一飛びで屋根に上がったりしたんですよ。俺にそんなことはできません。あっ、イタタ……」

竹林の中ほどで、程cは、足を止めた。

許褚も、程cの背中にぶつかりそうになりながら、かろうじて、立ち止まる。

「風はないはず……」

程cがそうつぶやいて、あたりに目を凝らした。

さすがは、歴戦の猛者である。許褚も、すぐにおかしいと気づいた。

風がないのに、見上げると竹の葉が、ざわっ、ざわっと揺れているのだ。

「何者だ!」

許褚の一喝が竹林に響き渡った。

だが、答えはない。

竹の葉のざわめきも収まり、静寂が戻った。

程cが拱手して曰く。

「元直殿。突然、おじゃましてすまない。今日は、貴殿にお願いしたいことがあって、参上した」

程cの目の前には誰もいない。

一体、元直とやらは、はどこに隠れているのか。

許褚は、程cの視線を辿ったが、その先には、竹林が茂っているばかりで道すらない。

そもそも、元直とは何者だ? 聞いたことのない名だな。

と、許褚は首を傾げるばかりである。

その時である。どこからともなく、若い男の声が響いてきた。

「軍師殿。あなたの依頼はわかっています。お断り申し上げます。お引取りを」

軍師がまだ何も頼んでいないのに、分かっているとはどういうことか。

許褚は、あたりをきょろきょろ見回した。

どこから聞こえてくるか全くわからないのだ。

四方八方、竹林に囲まれていて、方向感覚が狂いそうになる。竹林が生きていて、自分と軍師を取り囲んでしまったのではないかと錯覚してしまう。

まさか、罠にハマったのか……!

さっ……と青ざめる許褚。

一方の程cは、微笑みを浮かべる余裕があった。

「お引取りとはご冗談を。我ら二人は、元直殿の竹兵八陣にとらわれてしまった。元直殿の手引なしでは、もはや、外に出ることもままならぬ」

「竹兵八陣とはなんです。孔明でもあるまいに。私には、そのような高度な八卦陣は敷けませんよ」

「やはり、竹林で作った八卦陣じゃな。元直殿の住まいに近づくことは容易ではない。仮に、住まいにたどり着いたとしても今度は外に出ることができない。さすが、元直殿の住まいは、丞相の宮殿よりも防備が厚い」

「私の家はあばら屋です。丞相の宮殿と比べてどうします」

「孔明殿もあばら屋に住んでおられたが、劉備殿が三顧の礼を持って迎え入れたそうじゃ。わしは、三回どころか、三十回でも、元直殿の住まいを尋ねる覚悟でおる」

「軍師殿は、私を買いかぶられております。私は軍略も志も孔明の足元にも及びません。むろん、軍師殿にも」

「わしは老いぼれた。丞相も若くはない。そろそろ、次の世代の者に引き継ぐ時だ。わしの後継として軍師の座につけるのは、元直殿ぐらいしかおらぬと考えておる」

「ご冗談を。司馬仲達殿がおるではありませんか」

「司馬懿のう……。大きな声では言えぬが、あれは重用すべきではないとわしは考えておる……。元直殿、そろそろ、姿を見せてくれぬか。貴殿の姿が見えぬと、話しづらい」
posted by ノベル時代社武侠小説プロジェクト at 19:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 武侠三国志 剣豪徐庶の物語
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