2019年03月01日

よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍

よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍


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冒頭部抜粋

 よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍
                          大滝七夕

 1、魔王ドバラ瞬殺。そして……

「俺の暗殺を企む者がこの城の中に侵入した可能性があるだと?」
「はい。どうか、魔王様。お気をつけ下され」
 魔王ドバラは、「ふん」と鼻を鳴らすと、執事役の背の高いダークエルフの男を面倒くさそうに追い払った。執事は、狼狽の色を浮かべながらも一礼して退出した。
 部屋に残っているのは魔王ドバラとその筋骨隆々とした紫色の裸体にしな垂れかかっている白いエルフの女だけである。
 松明に照らされた石造りの部屋。やたらと広い部屋の中央に豪華な飾り付けが施された天蓋付きのダブルベッドが一つあるのみ。そこに二人が横たわっていた。
「面白い。試してみればよかろう。果たして俺が簡単に暗殺されるようなやわな奴かどうかな――」
 魔王ドバラは、ほくそ笑んだ。顔色は紫。銀色の長髪をオールバックにしたとげとげしい顔つきの男である。種族はダークエルフ。ダークエルフというと、一般的にはひょろひょろした奴が多いが、魔王ドバラは如何にもタフな外見をしている。
「まあ。ドバラ様を暗殺できる奴なんているわけがありませんわ。もしも、そんな奴がいるとしたら、一躍、時の人となってしまいますわね」
 白いエルフの女が妖艶な眼差しを魔王ドバラに向けながら、寝巻きを肌蹴て、一糸まとわぬ上半身を露にした。人間の女と同じ、白く艶やかな肌である。耳がとがっていることと長い髪が白銀色に輝いている事以外は、人間の若い女と変わりがない。
「だろうな……。まあ、そんな奴がいればの話だが」
 魔王ドバラは、豊満な裸体を露にした白いエルフの女にむしゃぶりついた。
「あん……」

 魔王といえども情事の最中は、女に魂を奪われ、警戒心が緩む。
 玉座で待ち構えている魔王に勇者が仲間たちと共に正面から突っ込む。いわば、正攻法だけが魔王との戦い方ではない。情事の隙を狙うのも、あながち間違いとはいえない。
 何しろ、この世界は常在戦場――針の先ほどでも隙を見せたほうが敗れ去るのだ。敗れ去った者は文句を言う権利も時間もない。
 暗殺者――アサシンの疾風忍(はやてしのぶ)は、ずいぶん前から、魔王ドバラの寝室の天井に張り付き、魔王ドバラに隙が生ずる瞬間を辛抱強く待ち構えていた。
 そして、とうとう、その時がやってきたのだ!
 忍は行動を起こした。
 松明の明かりが突如として、フッ……と消えた。この部屋には窓がない。松明が消えればわずかな月明かりさえない完全な闇の世界となる。
「むっ……!」
 魔王ドバラは即座に異変に気づいた。白いエルフの女を脇に押しやって半身を起こした。
 魔王ドバラといえども、松明の明かりに慣れた目を、墨を垂らしたような闇に慣れさせるのには、数秒かかる。その数秒の隙が魔王ドバラにとって命取りとなったのだ。
 突如として――この部屋の中に太陽が現出したかのような強烈な光が沸き起こった!
 闇の世界からから目が焼けるほどの光の世界へ豹変する。
 魔王ドバラの視界はもはや完全に狂っていた。視界ばかりではない。火山が吹っ飛んだかと思うほどの強烈な爆発音。人間の数倍は鋭い聴覚までも奪われていたのだ。もはや、自分の周囲で何が起きているのか察知することもままならない有様。
 これぞ、アサシンスキルを極めた者だけが使える『スタングレネード玉』の威力である。
 この時、魔王ドバラは、何かを叫ばんとして、口を動かそうとしていた。
 一方、忍は、既に天井から身を躍らせていた。
 天井から離れた時、両手に合計十本の薄刃の手裏剣を握りしめていた。床に音も立てずに降りた時には、その手裏剣は消えている。
 もちろん、すべて、投げ打ったのだ。魔王ドバラに向けて!
 魔王ドバラは、全身の要所に突如として鋭い痛みが走るのを感じ取っていた。だが、それも一瞬のことだ。次の瞬間には、全身麻酔を打たれたかのように体が弛緩して、瞬きさえできなくなっていた。
 無論、忍が打った『ポイズン手裏剣』の毒にやられたからに他ならない。
 この世界に存在するありとあらゆる猛毒の類を調合して作り出した究極の猛毒。ポイズンなどと言う控えめな表記は本来ふさわしくない。その猛毒をこってりと染み込ませたポイズン手裏剣の毒は、この世界で最強の力を有する魔王ドバラのさえも瞬時にして廃人状態に陥らせるほどの威力があったのだ。
 そして、魔王ドバラに向かって飛び込む忍。
 いや――飛び込むという言葉も全くふさわしくない。あえて言えば、瞬間移動か。
 アサシンスキルを極めた者だけが駆使しうる超高速移動スキル『ステルスダッシュ』。
 魔王ドバラの目前に迫った忍が、右手に握りしめたナイフ――オリハルコンダガーを魔王ドバラの心臓に向けて突き出す!
 音速の刺突!
 忍が右手を振るっただけでその周囲にソニックブームとも言うべき衝撃波が走り、天蓋の飾り付けが吹っ飛び、白いエルフの女も床に叩きつけられる。
 これぞ、忍の最強の刺突技『ソニックストラッシュ』。
 分厚い鋼鉄の鎧を百枚重ねたよりも硬いと言われる魔王ドバラの胸。その胸にオリハルコンダガーの刃が完全に吸い込まれていた。さらに、刃の先からもソニックブームがとばしり、魔王ドバラの胸が波打つ。瞬時にして、心臓がズダズタに破壊され、刃の隙間からどす黒い血が噴水の如く流れる。
 硬直したまま、カッと目を見開いた魔王ドバラ。瞬時に、その目から光が失われ、開きかけた口からどす黒い血と共にようやく漏れた一言。
「ひ……」
 魔王ドバラが何を言わんとしたのかは、忍は知らない。
「ひぃぃぃぃ!」という情けない悲鳴だったのか。あるいは、「卑怯者ぉぉぉぉ!」と叫びたかったのか?
 もしも、後者だとすれば、忍にとっては褒め言葉に他ならない。
 いずれにしても、一連の動作は、魔王ドバラが「ひ……」という最期の言葉を発するほんの一瞬の間に行われたのである。

 ※

 これが、アサシンスキルを極めた疾風忍の魔王ドバラ瞬殺のあらましである。
 それから一月が過ぎていた。
 石造りの洋式のベランダに置かれたビーチチェアに横たわり、夏の夜空に輝く星を見上げながら、忍は、魔王を瞬殺した瞬間を思い起こしては、ほくそ笑んでいた。
 何物にも変えがたい達成感。
 普通の冒険者ならば、四人あるいは十人といったパーティーを組み、団結して魔王に挑むのが常識だろう。魔王の城に正門から堂々と乗り込んで、数々の罠を突破し、複数の中ボスたちを倒して最後に魔王の玉座に至る。
 正攻法で魔王を倒すのも、確かに達成感はあろう。
「俺はそれをたった一人で成し遂げた……!」
 魔王の城に運び込まれる物資の中に隠れて城内に忍び込み、真夜中になってから、誰にも気づかれずに行動を開始し、魔王ドバラの寝室に潜入。魔王ドバラが愛人の女と情事にふけている隙を狙って暗殺する。
 正攻法とは言えない。だが、たった一人で、魔王ドバラを倒した。それも、然したる激戦を繰り広げることなく――こちらは全くの無傷で――瞬殺したのだ。
 どのような手段を使おうとも、たった一人で成し遂げたことは評価されるのが当然だと、忍は思っていた。







よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍



 魔王を瞬殺した暗殺者疾風忍は、その実績を以て仕官を試みるが、あまりの強さを恐れられて、どこからも採用されない。止むを得ず、暗殺のスキルを生かして冒険者たちをサポートする暗殺屋(アサシンヤ)を始めるが、閑古鳥が鳴くばかり。そんな折、妙な依頼が舞い込むようになって……。


 異世界パーセクに転生した疾風忍は、暗殺者(アサシン)となり、数年の修行と冒険の末、単身で魔王城に潜入し、魔王ドバラを瞬殺した。
 忍が魔王ドバラを瞬殺した理由は、軍人として仕官するためである。魔王瞬殺の戦績を以って仕官試験を受ければ、合格できるだろうと高をくくったものの、悉く書類選考落ちとなる。国王を暗殺しかねないと恐れられたためだ。
 仕官をあきらめた忍は、暗殺のスキルを生かして冒険者たちをサポートする暗殺屋(アサシンヤ)を始めるが、閑古鳥が鳴くばかり。
 最初の依頼は、大金と引き換えに、ビギナーズ王国のカレン姫を殴って戦闘不能の状態に陥らせよというものだった。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2019年02月28日

遺言執行士のお仕事

遺言執行士のお仕事

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冒頭部抜粋

 遺言執行士のお仕事
                       大滝七夕

 1、遺言執行士

 紺色のジャージを着た若い男が館の庭を全力疾走していた。石畳みの道の片隅に、今しがた使用人が集めたばかりの落ち葉が舞った。
「ああ!せっかく集めた落ち葉が!お坊ちゃま!そんなに慌てて如何なさったのですか……?」
 使用人の爺さんが声をかけたが、若い男は、目もくれずに、館に向かって駆けていた。
 何しろ、広すぎる庭である。庭だけでも、一つの村が丸ごと収まりそうなほど広大なのだ。
 ここは、ダーフォ島のダーフォ王国。その首都ピンアン城下町の郊外だ。鬱蒼とした森に囲まれた静かな館である。王族の別荘地と見まがうような広大な敷地を有していた。
 ダーフォ島は、世界のほぼ中心に位置しているため、四季がはっきりとして最も住み心地が良いと言われる島国である。同時に世界で最も高低差の激しい島だった。
 島の真ん中に鎮座する幽冥山脈の奥地には、天に向かってそびえ、雲を突き付けてもまだ頂上の見えないタワーのような山――天空山と、漆黒の闇に包まれ底の見えない深い洞窟――鬼の風穴がある。
 天空山は神の住む天空の世界へ、鬼の風穴は妖魔の住む魔界へとつながっているとうわさされており、世界の中心にして、天と地がつながる特別な島と目されている。
 若い男は館の庭を駆け続けた。この庭からも、ダーフォ島のシンボルとも言うべき天空山が見えた。普段なら見上げる度に天空の世界へのあこがれを抱かせる山だが、今、若い男の視界には入らなかった。
 やがて、敷地の規模の割には、こじんまりとした木造瓦葺二階建ての館が現れた。
「婆ちゃん……。持ち答えてくれよ……。俺が駆けつけるまで死ぬなよ……」
 そうつぶやいた若い男の顔は、上気していた。少し肌寒い風が吹いているというのに、額には汗を浮かべていた。よっぽど、慌てて駆けてきたのだろう。それも相当に長い距離を全力疾走してきたと見える。
 荒い息を吐いており、できることならば、地面にへたり込みたいという様子。だが、若い男は足を止めない。
 身長は一七〇センチ前後と低くも高くもない平均的な高さである。それなりに鍛えているらしく、肩幅が広く、がっしりとした体格だ。黒いショートカットの髪型にシャープな顔立ち。目が少し大きく、幼さを感じさせる。
 平常時ならば、人を和ませる柔和な目つきをしているはずだ。だが、今、若い男の目には、動揺の色が浮かんでいた。
 若い男は、高級旅館を思わせる大きな玄関に飛び込むと、靴を脱ぐのも忘れて、一階の一番奥にある寝室へ向かって廊下をバタバタと駆けた。
 男の足音に呼応するように寝室の引き戸が開け放たれた。若い女が顔を出した。
 身長は、若い男よりほんの少し低い程度だから、女としては高い方だろう。金銀細工のようなボブヘアに細面の顔立ち。やや高めの鼻に、濃い睫を宿したパッチリとした瞳。それに、思わず、触れたくなるような白く艶のある肌。
 身にまとっているのはネイビージャケットに白シャツと白パンツ。シャツがはち切れんばかりに大きく盛り上がった胸、蜂のように括れた腰とふっくらとしたヒップ。と、男ならば誰でも、見惚れてしまうようなセクシーな体つきをした女である。女が若い男の腕を引っ張って、寝室に引きずり込んだ。
「真人くん!」
「美里ちゃん!婆ちゃんは!」
「間に合ってよかったわ!」
 畳の敷かれた部屋である。広さは十二畳。その真ん中に布団が敷かれていて、老婆が眠っていた。
 ショートカットの白髪に厳格そうな顔つきをしている。仰向けになって目を閉じていたが、四角の額縁メガネを掛けていた。
 若い男――真人は、老婆の枕元にしゃがんだ。
「あっ……。真人君、土足はだめよ……」
 と、若い女――美里が小声でたしなめたが、真人は耳を貸さない。老婆を揺さぶるばかりだ。
「婆ちゃん!しっかりして!」
 老婆は、反応しなかった。
「ま、まさか!もう……!婆ちゃん!」
 真人は、老婆の鼻先に手を近づけた。息をしているかどうか確かめるためだ。
「真人や……。私は、まだ、生きておるぞ……かろうじてな」
 老婆が目を開き、口を動かした。だが、その声は弱弱しかった。
「婆ちゃん!よかった!」
「じゃが、まもなく、寿命が尽きよう……」
「そんな!婆ちゃん、死ぬのは早すぎるよ。だって、まだ七十八歳でしょ!」
「そうじゃ……。もうそんな年じゃったんじゃなあ。お前が生まれた時は、私は六十だったが、もう十八年も経ってしまったのじゃなあ。せめてお前が嫁をもらうまでは生きたいものじゃが……」
「そうだよ!婆ちゃんには長生きしてもらわないと!それに、俺、婆ちゃんに、まだ、何も、孝行していない!」
「おお……親孝行ならぬ祖母孝行者の孫じゃのう……」
「そうだよ。父さんと母さんのいない俺にとっては、婆ちゃんが親なんだ。親孝行するのが当然だよ!」
「おお……。なんとよくできた孫じゃ……。それなら、お前に一つ頼みがある。内密の頼み事じゃ。耳を貸してくれんか?」
「うん?」
 真人は、祖母の口元に耳を近づけた。一言一言を聞き漏らさないように神経を傾けた。
 暫しの沈黙――。
 祖母は何も言わなかった。
 まさか!息絶えてしまったのか!





遺言執行士のお仕事 (リーガルファンタジーシリーズ)


 遺言執行士――故人の遺言を聞き取るための特殊な呪術『遺言読取呪法』、墓標から故人のスキルを抜き取り相続人に承継させる『能力承継呪法』の遣い手。若き遺言執行士が、後継者問題に巻き込まれた魔銃道場主の孫娘を救うために奮戦する。


 遺言執行士――故人の遺言を聞き取り、遺言通りに遺産が承継されるように監督する職業。故人の遺言を聞き取るための特殊な呪術『遺言読取呪法(ラストウィルリーディング)』、墓標から故人のスキルを抜き取り相続人に承継させる『能力承継呪法(スキルサクセション)』の他、相続法を初めとした民事法の法律知識も必要なため、隣接法律職と呼ばれている。なお、遺言執行を妨害する者がいる場合は、正当行為として武力を以て排除することが許されている。
 水城真人は、祖母から無理やり押し付けられる形で、水城遺言執行士事務所を継いだ。事務所でバイトをしている幼馴染の江上美里の助けを借りながら、遺言執行士として成長していく。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2019年02月27日

武侠小説 劈風魔神剣伝説

武侠小説 劈風魔神剣伝説

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(冒頭部)
 武侠小説 劈風魔神剣伝説
                       劉波兒

 1、魔神復活

「とうとう雪が降る季節になってしまったか……。今年も弟子になれなかったなあ……」
 頬にかかる細雪を払いながら、崑崙派の一般学生であることを示す黄色の道服をまとった少年は、深いため息をついた。
 凛々しい顔立ちであるが、柔和な目つきをしており、やや幼さが残る。背丈も平凡だが引き締まった体格をしており、この少年が勤勉に剣術や拳法の修行に励んでいることを示していた。
 ここは、崑崙派の拠点――崑崙山。崑崙山は人が住む町からは何千里も離れた仙境である。その周囲には、並の人間では到底、走破できない厳しい地形が広がる。
 北に広がるのは雪幻雪原。冬はもちろん、夏でも激しい吹雪に見舞われ、年中、雪と氷が解けることはない。並の人間が一歩でも足を踏み入れれば、瞬く間に凍り付いてしまう。その奥地には雪幻山という雪山があり、山中には、魔封墓なる墓がある。魔封墓には、かつて人間の世界を滅亡寸前まで荒らしまわったという強力な妖魔が封印されているそうだ。
 南に目をやれば、真逆の灼熱の地獄。獄門砂漠と呼ばれる広大な砂漠地帯が広がる。砂漠を行く人間や動物は、容赦ない陽射しにより、悉く干からびてしまう。砂漠の所々には、通りかかる者を地獄へと引きずり込む穴が開いているという。だが、人が住む町に行くためには、この砂漠を通り抜けるしかない。
 そんな中にあって、崑崙山だけは唯一、四季がはっきりとしており、人が安心して暮らせる環境を保っているのだ。
 崑崙山は、山頂付近の崑崙聖堂を中心に、九つのお堂が立ち並ぶ霊山である。崑崙聖堂の他、黄龍堂、青龍堂、朱雀堂、白虎堂、玄武堂、麒麟堂、霊亀堂、魔剣堂と名付けられたお堂がある。崑崙聖堂には崑崙派のトップである掌門、その他のお堂には長老と言われる崑崙派の武芸を極めた道士がトップに立っている。
 弟子になるというのは、その長老たちのいずれかに拝師し、入門弟子に昇格するということである。
 少年は、今、魔剣堂と呼ばれる裏寂れたお堂の外回りを掃除しているところだった。
 魔剣堂は、他のお堂と違って、長老がいないお堂である。長老ばかりか弟子も一人もおらず、お堂の扉も窓も完全に板で封印されている。中を見ることができないし、何人たりとも中に入ることが許されていなかった。
 めったに人が近づかないこともあって、魔剣堂の周囲は、枯葉が散乱し、埃もたまっていた。
 少年は、せっせと箒を動かした。雪が積もっては掃除することができない。早めに終わらせようと思っているのだ。
 廂のかかっている通路の下にゴミを集めて袋に入れようとした時、その袋が突然、バンと弾けてしまった。せっかく集めたゴミも、そこらに散らばってしまった。
「な、なんだ!」
 少年が狼狽していると、後方からゲラゲラと笑う声が複数起きた。
 少年が振り返ると、同じ年ごろの馬面の少年が背後に大柄な少年たちを従えて立っていた。
「やあ!黄礼和。こんなところで何をしているんだい?」
 馬面の少年は、つかつかと黄礼和と呼んだ少年の下に歩み寄ると、礼和の持つ箒を踏みつけた。
 先ほど、ゴミ袋が弾けたのは、馬面の少年が崑崙派の内功――崑崙派破邪功を込めた掌打をぶっ放したからだと分かった。
「やめろ!仕事の邪魔をするな!」
 礼和は、馬面の少年を押しのけようとしたが、ビクッとも動かすことができなかった。馬面の少年が特別に大柄だからではない。
 馬面の少年の体格は、礼和とさほど変わらない。唯一違うのが、着ている道服の色とデザインだ。白虎の模様が施された緑色の道服を身に付けている。
 礼和とは立場が違うのだ。崑崙派白虎堂長老の史天進に拝師し、入門弟子に昇格した者であることを意味していた。
「おっと!口の利き方を気を付けろよ。一学生の分際で、入門弟子の俺に逆らうのか?」
 馬面の少年が嘲笑しながら、礼和の腹に思いっきり蹴りを入れた。礼和は避けることができずに、うめき声をもらしながら地面に転がった。
「くっ……!高文護!何をするんだ!」
「俺を呼び捨てするとは、ますます、礼儀のなっていない奴だな」
 馬面の少年――高文護がさらにもう一蹴り入れようとしたのを礼和は、両腕を交差させてガードした。
 だが、文護の蹴りの威力はすさまじく、礼和は、吹っ飛ばされ、魔剣堂の壁に強かに全身を打ちつけてしまった。壁がミシッと軋んだような気がした。
「おい!いい加減にしろ!お堂の壁が壊れるだろ!」
 礼和は、痛みをこらえながら、よろよろと立ち上がった。
「こんなボロいお堂なんて、どうなろうが知ったこっちゃねえ。それとも、お前は、このお堂が気に入ったのか?あっ!分かったぞ!魔剣堂なら入門弟子に昇格できると思っているんだろ?長老がいねえから、僕は魔剣堂の入門弟子だぁ!って勝手に名乗れるもんなあ!」
 文護がゲラゲラと笑うと、背後に控えていた大柄な少年たち――彼らは黄色の道服を着ており一般学生だと分かる――も一緒に大笑いし始めた。
「僕は、ただ掃除をしているだけだ。ゴミがたまっているから、綺麗にしなちゃいけないって思っただけだ!」
「そんなに、掃除が好きなら、崑崙派の学生なんてやめて、掃除夫になれよ。お前にはお似合いだぜ!」
 文護に胸倉を掴まれた礼和は、散乱した枯葉や埃の上に投げ飛ばされた。うまく受け身を取ることができずに、仰向けにひっくり返ってしまった。頭を強かに撃ち、目の前が一瞬白くなった。
 それでも、礼和は、よろよろと立ち上がった。
「いい加減にしろ!僕が何をしたっていうんだ!」
「何をしたかって?お前の存在自体がうっとおしいんだよ。十年以上も修行しても入門弟子になれないなら、さっさと崑崙山から出て行きな」
 文護が再び、襲い掛かって来た。礼和は、迎え撃とうとして身構えた。
 その時、背後から、「何をしているの!やめなさい!」という細いが鋭い一喝が響いた。礼和の前に瞬間移動してきたかのように人影が現れた。同時に、礼和に掴みかかろうとしていた文護が、吹っ飛ばされて尻餅をついていた。
「痛てててっ!お前!何をしやがる!」





武侠小説 劈風魔神剣伝説


 崑崙派の落ちこぼれ少年道士が魔剣堂に封印されていた劈風魔神剣と魔神の力を蘇らせ、その力を得たために、師匠や江湖の邪悪な武芸者たちから命を狙われることに。女剣士や幼馴染の道姑と共に戦うが……。中華ファンタジー小説。


 崑崙派の落ちこぼれ少年道士である黄礼和は、魔剣堂に封印されていた劈風魔神剣とその中に閉じ込められていた石宝宝を目覚めさせてしまう。宝宝は外見は幼女であるが劈風魔神剣の遣い手に力を与える魔神。宝宝は礼和のことをお兄ちゃんと呼び、憑りついてしまう。それにより、礼和は劈風魔神剣の剣士となった。
 劈風魔神剣は最強の剣だが、かつて、江湖に深刻な被害をもたらした邪剣。崑崙派の道士たちからは忌み嫌われている。
 復活した劈風魔神剣を奪わんとして様々な武芸者が崑崙派の拠点崑崙山に押し寄せる。崑崙派は劈風魔神剣を守ろうとするが多大な被害を受ける。崑崙派の長老たちは、事態を打開するためには、礼和を殺して宝宝の魂を抜き取り、再び劈風魔神剣と宝宝を封印するしかないと考える。

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